黒いコートのオンナノコ 序 章
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序 章
気象庁が梅雨明け宣言を発表すると、夏は一気に加速し始める。オホーツク海気団とのせめぎ合いで抑圧された鬱憤を解放するかのように、小笠原気団は自分の勢力を最大限に伸ばして、今年も日本の蒸し暑い夏を強力にプロデュースし続けている。
例年に比べて、梅雨明け宣言は早かった。
期末テストが終わった頃には、すっかり「ニホンノナツ」は出来上がっていた。
返ってきたテストの答案を鞄に入れて、誠は制服のまま丘に登っていた。学校の裏手にあるなだらかな丘には、てっぺんの小さな社に向かって散歩道が続いている。たまに思い出したように近所の人が散歩に来るだけで、普段は閑散として風が木の葉を揺らす音だけが響いている。
誠は時々、思い付いたようにこの神社にやって来る。片隅の傾きかけたペンチのホコリを払ってから、小さく息を吐いてそこに腰掛ける。
「あーあ、一学期も終わりかぁ」
夏休み前の登校も、あとは終業式だけ。……テストの出来も、いつもと同じくらい。どこかの通信教育のダイレクトメールの漫画みたいに、一気に成績が上がるようなこともなく。国語がちょっと上がった、英語がちょっと下がった、なんて細かい浮き沈みを繰り返しながら、結局はいつも通りの成績に落ち着いてしまう。中3の夏。高校受験のためには大事なテストだよとか言われてちょっと頑張ってみても、結局頑張ってるのはみんな同じなわけで。
それでも、誠の成績は中の上と言うところ。少なくとも悪かない。
将来の不安とか出てくる頃ではあるけれど。
でも、まだ真剣に悩むまでには時間がある時期。取り敢えずそこそこの高校に進学して。それでまた、しばらくはなるようになるんだろう。
傷みが進んでいる背もたれに体重を預けて、誠は空を見上げた。
青い空。
突き抜けるような青い空って言葉があるけど、この空を突き抜けたらいったいどこに続いてるんだろう。
未来とかそういうのは、まだあまりにも遠過ぎて、身近には感じられない。
それでも夏休みはやってくる。
入道雲が馬鹿みたいに大きく膨らんでいく季節。
セミの声がやたらとうるさく響き渡る。青々と育った木々の葉が風に吹かれてさわさわとそれに合わさり、夏のハーモニーは作られていく。
……中学生最後の夏休みが、もうすぐ始まる。